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法定休日

Q
ドライバーが休日出勤手当の支払いを言ってきました。
当社では、休日は日曜と土曜が2回程度ですが、仕事の都合で、出勤する場合もあります。
休日出勤手当の対象となるのはどういうケースか教えて下さい。
A

「法定休日」や「振替休日」「代休」「年次有給休暇」等を理解して下さい。

法定休日・所定休日とは?

休日については、各社の就業規則等で自由に定められており、これを「所定休日」といいます。週休2日制、国民の祝日、年末年始、夏季休日(お盆休み)等を会社の休日として定めている会社が多いかと思います。 一方、労働基準法(以下、「法」と記載します。)第35条1項で、使用者は労働者に対して「毎週少なくとも1回の休日」を与えなければならないと定められています。これを「法定休日」と言います。法定休日は1日単位で付与される必要があり、午前0時~午後12時までの暦日をいいます。曜日の特定は義務ではありませんが、特定することが望ましいとされています。また、週1日の休日の例外として「4週を通じて4日」という定め方も可能です(法35条2項)ただしこれを適用するには、4週間の起算日を就業規則等に定めておくことが必要です。 また、法定休日に勤務する場合、35%以上の割増率での割増賃金の支払いが必要になります。しかし、法定休日以外の所定休日に勤務する場合は、週の労働時間が週法定労働時間(40時間)を超えた部分について、時間外労働として25%以上の割増率での割増賃金の支払が必要となります。それぞれの違いを理解しておきましょう。

振替休日と代休は違うの?

休日に勤務したときの取り扱いとして「振替休日」と「代休」がありますが、それぞれ違いがあります。

  1. 「振替休日」(休日の振り替え)

    労働日と休日を事前に振り替えることです。この場合は、休日に出勤しても、その日が労働日に振り替わっているので「休日労働」とはなりません。法定休日に労働する場合の割増賃金の支払いも不要です(但し、振替休日により働いた日を含む週の労働時間が週法定労働時間を超えた部分については時間外労働となるので、割増賃金の支払が必要となります)。
    とはいえ、労働者にとっては振替休日を取るからと言って、休日労働が頻繁に行われると、私生活が乱されるおそれがあります。そのため、労働基準法の解釈として、次のような取り扱いが必要とされています。

    • 就業規則等に振替休日の定めをすること。
    • その上で、実施に当たって振替休日と労働日を特定すること。
    • 事前に労働者に通知すること。
    • 振替休日はできるだけ近接した日が望ましい。
  2. 「代休」

    休日に労働した場合に、事後に他の労働日を休日にすることを代休といいます。振替休日のように「事前の振り替え」ではありませんので、休日に労働した時間は休日労働時間として扱われ、法定休日に労働した場合には原則の規定通り、35%以上の割増率での割増賃金の支払いが必要になります。

休日労働の規制を把握しておこう

前述の通り、休日労働が頻繁に行われると、労働者の私生活が乱される恐れがあるため、法定休日に労働するにあたってのルールとして次の3つが法で定められています。

  1. 非常災害時
    災害その他避けることのできない事由によって臨時に必要がある場合。使用者が労働基準監督署長の事前許可を得ること(法33条1項)。
  2. 公務上の必要がある場合
    労基法の適用事業に該当しない官公署の公務員についての規定。(法33条3項)
  3. 36協定の定めによる場合
    使用者と労働組合又は労働者の代表との協定に基づいて休日労働をさせることができる(法36条)。必要な理由、業務の種類、労働者の数、休日労働の対象となる休日、協定の有効期間等を定めて労働基準監督署長に届け出ることが必要(法施行規則16~17条)

なお、法定休日以外の所定休日の労働については、労働基準法上で特に規制はされていませんが、労使協定や就業規則等でルールを明確にしておくほうがよいでしょう。

有給休暇とは?休日との違い

上述の「休日」とは別に、法39条では労働者に毎年一定日数の「年次有給休暇」を付与することを義務づけています。これは、労働者の心身疲労回復や労働力の維持はもちろん、ゆとりのある生活を目指して、所定の休日以外に一定の休みを付与する制度です。 フルタイムで勤務する社員の場合、雇い入れの日から起算して「6か月間継続勤務」し、「全労働日の8割以上出勤」することによって、10日の有給休暇が付与されます。その後1年ごとに付与される日数が加算されていき、雇い入れの日から6年半以上勤務する場合は、毎年20日ずつ有給休暇が付与されていくことになります。 有給休暇は労働者の権利であるため、労働者に時季指定権があり、使用者は当然に有給休暇の取得を認めなくてはなりません。労働者が文書や口頭で届けを出すことは、労働者が既に有している権利を行使するために時季を指定するものであり、使用者の「承諾」や「同意」は必要ありません。 ただし、例外として使用者による「時季変更権」があり、労働者の請求の時季に有給休暇を取得することが「事業の正常な運営を妨げる場合」には他の時季に指定するよう求めることができます(使用者の時季変更権:法39条3項)。

なお、「休みを取ると他の人の仕事が増えるから」というのは理由になりません。同僚等のサポートにより当該部署の業務に支障が生じないのであれば、「事業運営を妨げるもの」ではないからです。
また、労働者が退職直前に未消化の有給休暇を一括請求したときはどう取り扱うか、ということがよく問題になるようです。退職直前で、他の時季に変更することができない場合は、使用者の時季変更権の行使はできませんので、労働者からの時季指定を拒むことができないことになります。業務の引継ぎなどを勘案し、退職時には前広に退職の申し出を行うよう事前に注意を促しておく必要がありそうです。

働き方改革関連法による「使用者の年休時季指定権」

有給休暇の取得に関して、これまでは労働者が自ら取得時季を指定して初めて有給休暇が取得できる仕組みでした。しかし、労働者の申し出に基づくため、職場の雰囲気によっては取得しづらいといった事情もあり、有給休暇の取得率は50%程度にとどまっていました。そこで、2019年4月施行の働き方改革関連法の中で、有給休暇の取得促進のため、使用者が労働者の希望を聞いた上で年5日の時季指定を行うことが定められました。対応しない企業には罰則も設けられますので、今から対象従業員が皆、年5日の有給休暇取得を促進できるような体制を作っていく必要があるでしょう。

休日や有給休暇の趣旨を理解し、適切に運用していきましょう

労働者の健康と精神的なゆとりを守り、生活時間を保証するため必要なものとして、法定休日が定められています。振替休日の規制や、休日労働の割増賃金等は、野放図な休日労働を規制する趣旨のものです。また、有給休暇の付与は使用者の義務とされていますが、今後は「対象労働者に年5日以上有給休暇を取得させること」も義務化されます。
それぞれ制度の趣旨を正しく理解し、休日・年次有給休暇を適切に運用していきましょう。これにより、労働者のワークライフバランスが守られ、結果として労働生産性の向上にもつながっていくのではないかと思われます。

有給休暇に対する支払い額の計算

Q
年次有給休暇を取得した場合に使用者が支払わなければならない金額を教えて下さい。
A
①平均賃金  直前の3か月間にその労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額
(臨時に支払われた賃金及び3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は除く)
 
平均賃金 算定事由発生日以前3か月間の賃金総額
上記3か月間の総日数(総暦日日数

②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(通勤手当を除く他の手当は含む)
③健康保険法第99条第1項に定める標準報酬日額に相当する金額

Q
一般的にはどの適用が多いのでしょうか。できるだけ簡単なものがいいのですが。
A

①は直前3か月の各人の計算、③は労使協定が必要です。ここでは、②の通常の賃金について説明します。
通常の賃金とは「所定労働時間労働した場合に支払われる」と定義されていますから、下記の部分になります。

Q
休んでいるのに、何故手当も必要なんでしょうか。
A
有給休暇を取得することで、給与が大幅に減った場合、生活に影響を与えることになり、結果として有給休暇を取りにくくしてしまいます。
基本給部分だけでなく、手当額の所定時間分を保証することで、その 不利益をなくそう、というのが趣旨です。
Q
手当の所定時間分? どうして計算するのですか。
A

下記の図の通りです。

Q
いちいちの計算は煩雑すぎます。手当の平均額を決めて有給手当としてはだめですか。
A

個々の労働者に不利益を与えないという考え方ですから、平均だと実際額より下回る場合が出てきますから原則としては認められません。
但し、不利益にならない金額での設定ならば可能ですから、長距離専属や地場専属などのグループ毎の設定が現実的ではないでしょうか。

運賃の引上げ交渉と必要人件費の根拠

運輸業界における長時間労働と低賃金の原因は、運賃における荷主の優位性と業界の下請け・孫請け構造に原因がありますが、ドライバーの給与が最低賃金を下回ることや残業代の不払いなどは当然許されません。しかし、多くの事業者が歩合制給与を採用し、労働時間を給与に反映させていない事で、事業者が法律違反のリスクを一方的に抱えることとなり、適正な運賃への引上げを難しくしています。
請け負う業務における必要人件費を正確に算出し、最低賃金を上回る事はもちろん、運転手不足に対応できる給与を保証できる運賃の確保に向けた取り組みが重要です。(下記は、想定事例でのQ&Aです。)
Q
大手運送会社の専属で4tの仕事を1日27,000円で請け負っていますが、何とか運賃を引き上げて欲しいと思っています。給与は歩合制でだいたい40%~45%を基準にしていますが、拘束時間も長く、運転手が長続きしません。引上げの有効な説明方法はありませんか。
A

担当運転手の勤務実態を教えて下さい。

Q

朝5時に出勤し、退勤は夜の8時。日曜日だけが休日。実際の荷卸しや運転時間は12時間程度で休憩時間2時間、車庫からの回送が往復で1時間というのが基本です。

5:00 回送 5:30 2時間くらいが休憩時間 19:30 回送 20:00
A

まず、運転手の労働時間を考えましょう。拘束時間15時間は確定です。労働時間は15時間-2時間=13時間ですから、これを基に月間労働時間を算出します。

月間所定労働時間 7月の年間カレンダーでの休日は9日となっているので稼働日は22日、所定労働時間は8時間×22日=176時間
月間総労働時間 13時間×27日=351時間(そもそも最大拘束時間違反ですが)
残業時間 月間総労働時間351時間-所定労働時間176時間=175時間

結局175時間分の残業手当が発生することになります。

Q
それが何故運賃の引上げ理由の具体的根拠になるのですか?
A

人件費を最低賃金で計算してみます。今年10月からの引上げで大阪では時給883円、残業手当が2割5分増し の1,104円となります。

所定内賃金 883円×176時間=155,408円
時間外賃金 1,014円×175時間=177,450円
深夜手当、休日出勤手当 なし

合計で332,858円が最低賃金に基づく支給額になります。

Q
7月の給与は月間売上729,000円(1日売上27,000×27日)の40%(29万)~45%(32.8万)でしたから最低賃金に違反しているということですね。当社は歩合給ですから、違反かどうかは意識していませんでした。
A

27,000円の運賃の根拠は、1日に3時間程度、3回の運行を行い1回あたり9,000円というザックリしたものですが実際運行する場合の給与の根拠を算出した上で適正な運賃を決める必要があります。
仮に、最低賃金に違反するような給与しか支払われない場合の契約は再考する、ということではないですか。

Q
指摘はその通りですが、契約を辞退していったら会社が成り立たないから、やむなく継続せざるを得ないのでは。
A

残業手当不払いや最低賃金違反の訴え、長時間労働を原因とする過労運転などのリスクは該当する運送契約にとどまるものではありません。まさに会社存続そのものが脅かされることになります。
今回の事例では
①運賃の引上げ交渉
②委託業務の見直し
③ ①②が難しい場合は撤退
が選択肢ではないでしょうか。

更に、運転手不足を解決する為には、時給換算での給与ベースが問われます。仮に、時給1,000円とした場合
上記の例では基本給1,000円×176時間=176,000円 残業手当1,250円*175時間=218,759円 計394,750円となり、
社会保険の事業主負担を15%とすれば59,213円 総計で454,000円となり、運賃の60%を超えることになりますから、委託の継続は厳しいと言えます。

歩合給の原資を給与明細の中だけで基本給と残業手当に振り分けている事業者が多数ありますが、時間管理を実施しないままでは違法性を免れません。そして、こうした運送業界の慣行が、適正な運賃確立の妨げになっているのかもしれません。(室田)

※よく見られる違法性の高い「歩合給制度」

「トラック運転手の労働時間等の改善基準」と「労働基準法」

Q
運転手の拘束時間や休息時間等の「改善基準」は労働基準監督署の監査だけでなく運輸局の行政処分の基準にもなっていると聞きますが、基準法との関係を教えて下さ い。
A

下の図を見て下さい。
労働基準法と「トラック運転手の労働時間等の改善基準」の関係です。改善基準は通称「過労運転防止基準」とも呼ばれ、運輸労働者の「過労」の基準を定めたものです。
もともと、長時間労働が慢性化し、そのことが原因とした過労運転による重大交通事故が多発したことから、労働基準法では規制できない
①拘束時間 ②休息時間 ③運転時間の基準、を過労運転の防止を図る目的で定めたものです。
この改善基準は大臣の「告示」ですから、法律に準ずる拘束力があります。

Q
この「改善基準」に基づいて、労働基準監督署以外の行政機関も「過労運転」の認定を行う という事ですか。
運輸局、警察はそれぞれの根拠となる法律を教えて下さい。
A
運輸局 貨物運送事業法第3条4(過労運転の防止)
貨物自動車運送事業者は国土交通大臣が定める基準に従って、運転者の勤務時間及び乗務時間を定めなければならない。(運行停止等の行政処分)
警察 道路交通法第75条
運転手に十分な休憩を取らせず、正常運転できないおそれがある状態で運転させることを命じ、容認してはならない。(罰金、懲役)

過労運転防止は社会的問題でもあり、3つの行政機関は相互の連絡体制を密にしていますが、その過労運転か否かは「改善基準」に違反しているかどうか、となっています。
例えば、重大交通事故の場合は警察から運輸局、監督署に。
残業代の未払いの申告で 悪質な改善基準違反の場合は監督署から運輸局に情報提供される場合もあります。

Q
拘束時間や休息時間は労働時間や残業時間の算出には直接関係ないと思うのですが。
A

拘束時間や休息時間を算出するためには、出勤時間と退勤時間の正確な管理が必要です。
労働時間や残業時間は、拘束時間から休憩時間を除いた時間に週40時間制を考慮し算出することから、結局のところ出退勤時間の管理が最も重要だということになります。

Q
トラック運転手の時間外労働時間の限度について教えて下さい。
法律では、1か月45時間  となっていますが、運送の場合、この限度時間が適用されないと聞いています。
制限はないのでしょうか。
A

改善基準は、1か月の拘束時間の限度を月293時間(最大320時間)1日13時間(最大16 時間)としており、休養時間も規制しています。
これらは運転労働者以外存在しない厳しい 規制であるということもあり、時間外時間の制限は最大拘束時間の範囲内とされています。

※所定労働時間176時間の月の場合、293時間―176時間=116時間の残業が可能とな り、36協定で1か月100時間程度の届出も違反にはなりません。
※脳・心臓疾患の労災認定基準は、発症前1か月に100時間または2~6箇月平均で月 80時間の時間外時間を超える場合、業務との関連性が強いとしている。

(ポイント) 当面は月80時間以内、2018年度中に月60時間以内を目標に

休日労働の割増賃金

Q
当社では1年変形労働時間制を導入し、年間休日を105日として就業規則に定めている。
3月に所定休日が9日のところ5日間しか休日付与ができなかったが、9日のうち4日間は休日出勤手当(35%割増)の対象になるのか。
A

休日労働の休日とは、下記、労働基準法35条の定めによる。
Ⅰ 使用者は、労働者に対し、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。
Ⅱ Ⅰの規定は4週間を通じ4日以上の休日を与える使用者については適用しない。
4週間を通じ4日以上の休日が付与されていれば、休日労働には当てはまらず休日手当を支払う必要はない。

■昭和63.3.14基発150号
「法35条に規定する週1回又は4週4回の法定休日に労働させた場合に割増賃金の支払いが必要となる。所定休日(就業規則等で定める休日)に労働させたとしても、法定休日が確保されている場合は、休日労働に対する割増賃金の支払いは必要ない。」

「手待ち時間」と「手空き時間」

Q
運転手の場合、実際に運転している時間以外の時間が多くあるが、積込み待ちとか卸し待ちなどの待機時間は休憩時間として扱ってもいいか。
A

休憩時間に関する主な行政通達は下記の通り。

  • 「休憩時間とは単に作業に従事しない手待ち時間を含まず労働者が権利として労働から離れる事を保証されている時間」(昭和22・9・13)
  • 「トラック運転者に貨物の積込みを行わせることとし、その貨物が持ち込まれるのを待機している場合(一般に手待ち時間と言う)において、全く労働の提供はなくとも出勤を命じられ、一定の場所に拘束されている時間は労働時間と解すべき」(昭和33・19・11)
  • 「貨物の到着の発着時刻が指定されている場合、トラック運転者がその貨物を待つために勤務時間中に労働から解放される手空き時間が生ずるため、その時間中に休憩時間を1時間も設けている場合にあって、当該時間について自由に利用できる時間」であれば「休憩時間である」(昭和39・10・6)

「待ち時間」であっても、運転手がその時間を自由に利用できるかどうかが重要となるので、以下の項目等を参考にし、検討する必要がある。

  1. 駐車して車両から離れることができる。
  2. 車両(貨物)の監視義務を課していない。
  3. 労働から離れて自由に利用できる。(構内に居ること等の指示は可能)
  4. 次の作業時間が決まっている。(その時間までは自由な時間)

休憩時間の上限

Q
法律では、休憩時間は6時間から8時間の労働時間で45分、8時間を超えると1時間となっていると思うが、当社では仕事と仕事の間が長く、1時間以上の休憩時間を設定したいと考えている。休憩時間の上限」は法律上決まっているのか。
A
法律は休憩時間の最低時間は決めているが、上限時間は決めていない。
とは言え、例えば15時間拘束し、実際の仕事が8時間程度だったため7時間の休憩時間を設定した場合、15時間も会社に拘束されて8時間分の給与しか支給されないと言うのは世間常識からみても余りにひどく、不当に長時間の拘束を強いることになるから「公序良俗」にも反する、と言うのが現在の解釈であり、3時間程度までが上限であると考えられている
Q
現在の1時間休憩を最大3時間までに変更する手続きはどうしたらいいか。
A
就業規則を変更しなければならない。
但し、運転手の給与に影響する可能性(不利益変更)があるので、変更する必要性や合理性を明確にし、運転手に周知するなどの手続きが必要となる。

「点呼と労働時間」

ある運転手は、早朝3時頃からの仕事の担当であったが、「寝過ごしを避けるに為に」(本人)前日の夜9時くらいに出勤、積込み倉庫の近くまで回送し、車内仮眠をとるのが日常となっていた。ある日、その運転手が、夜9時以降の労働時間に対する過去2年間の残業代の支払いを求めてきた。
証拠は、点呼簿に記載された点呼時間の記録とデジタコデータであった。
会社は「本人の都合であって、仕事はあくまで早朝3時からであるから支払う義務はない」と主張している。
(実際の話ではありません。回答については当方の見解です。)
Q
点呼簿に記載された点呼時間と運転手の押印は、点呼実施の確認であり、労働時間とは関係ないのではないか。
A
点呼は「乗務前点呼」「乗務後点呼」とあるように、使用者が指示する乗務内容に繋がった直前、直後に行うものであるから、当然にして始業点呼開始時間から就業点呼終了時間までが労働時間として認定される。
Q
前日から出勤したのは運転手の都合であり、会社が指示したものでない。あくまで翌日の荷物積込みからしか支払う義務はないはずだ。
A
点呼簿には運行管理者の承認印の押印があった。会社としては貨物運送事業法輸送安全規則で義務づけられた「乗務前点呼」を実施し、直後の運行記録がデジタコデータに記録されていることから、点呼開始時間以降は労働時間として認定される。
Q
しつこいが・・・。仕事はあくまで荷物を積み始めてからではないか。
A
車両点検、点呼、その後の積込みの為の車両回送時間は荷物を積み込む為に絶対必要な時間であり、労働時間の一部であるから、その時間の賃金を支払う義務がある。
Q
当社は運転手がそれぞれの担当の仕事を考え、積込み時間に間に合う様に出勤してきている。前日に出勤しているのは、この運転手だけ。しかもこの運転手は仕事終了後も車内で仮眠を取るなど問題が多い。
A
点呼時間を運転手任せにしている点では、この運転手も他の運転手も同様である。前日からの6時間分か、少し早く出勤した1時間分かという事に過ぎない。
「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間である」(三菱重工業長崎造船所事件・最一小判平成12年3月9日)から、会社の指示として、運転手に出勤時間を任せているという事は、出勤した時間から会社の指揮命令下に置かれたという事を承認していたと解釈される。
Q
しかし、仕事の内容は運転手しかわかっていないから、点呼時間を会社が指定する事は不可能だ。直前に翌日の仕事の段取りが決まるのが日常であるのが運送業界なのに、行政の理解不足では?
A
仕事の内容は例え前日であっても運行管理者は把握しているハズだ。始業点呼の「開始時間」(出勤時間)は積み下ろしの為の車両回送時間等を考慮すれば、決定できる。
会社として、出勤時間(点呼開始時間)を指示する事が残業代不払いをなくす為の「入り口」である。
Q
大まかに理解したが、運転手は自分のペースで仕事ができるからドライバーという仕事を選んでいる。時間で管理されることは望まない。
A

運送業界が、そうした「運転手気質」を口実に時間管理から目を背け、売上給という安易な給与支払いを続けてきた事が、残業手当不払いの申告を多発させている要因と言える。

(例)
出勤時間 (点呼簿に出勤時間を明記する)
3:00   3:10   4:10  
  点呼・車両点検   車両回送   荷物の積み降ろし開始・運行
Q
「売上が上がればそれだけ給料が上がっているし、運転手にとっては歩合給は働き甲斐がある制度。そもそも、運転手を時間管理するなんて無茶だ。」
A
「無茶かどうかという問題ではありません。運転手も法律上は歴然とした労働者ですから、使用者が法律に違反した働き方をさせた場合は当然、法律により罰せられます。」
Q
「週休2日制で1か月に8日も9日も運転手を休ませたら、仕事が回らないし、100%不可能。ギリギリの運転手で回しているのに、会社が潰れていまう。」
A
「8日の休み付与は必ずではありません。36協定の範囲内で休みの日に出勤させた場合は割増賃金を支払えばOKです。就業規則で書かれている所定労働時間(残業時間)を理解していないと割増時間を把握できません。」
Q
「所定労働時間(残業時間)?8時間を超えれば残業代を支払うということじゃないの。」
A
「監督署に提出している[1年の変形勤務届け]と[年間休日カレンダー]を見て下さい。
例えば、3月に休日を8日としている場合、勤務日数は23日となり、3月の所定労働時間(残業時間)は8時間×23=184時間となりますから、それを超えた時間が時間外割増(25%)となります。」
Q
「4月は8日間の休みの予定が5日しかないから、3日間は休日出勤で35%の割増ではないの?」
A
「労働基準法35条は4週間を通じ4日以上の休日を義務付けています。従って、平均して1週間に1日休みがあれば休日出勤にはあたりません。8日の予定の内4日の出勤は時間外労働の対象として25%の割増です。」
Q
「労働時間(残業時間)管理の必要性は理解できるけど、運送の仕事は毎日の仕事が決まっていないし、交通渋滞や事故もある。とてもじゃないけど労働時間(残業時間)を管理できない。そもそも、事務員とかと違い、運転手は同じ仕事でも人により時間がバラバラ。」
A
「それでも、労働時間(残業時間)管理は必ず必要です。労働基準監督署の指導では残業代の未払いが圧倒的です。残業代を計算するために、当然にして一人一人の労働時間(残業時間)の管理が必要ですし、法律はトラック運転手にもそれを求めています。」
Q
「時間で給料を支払うことにしたら、運転手によっては意図的に時間を長引かせてたり、休憩したりするのではないか。真面目な運転手が馬鹿をみるのは会社としてはマズイ。」
A
「本来、仕事の内容やそれにかかる必要時間は会社が把握することが必要ですが、運送会社によっては、全部運転手任せになってます。まずは、全部の仕事について会社として指示する基本的な運行計画を作成する必要があります。」
Q
「いくら計画を作っても、会社の外まで運転手を管理できない。労働時間(残業時間)を意図的に拡大させられ、過剰な時間外手当を支払うことになる。」
A
「運転手が恣意的な休憩等で労働時間(残業時間)を延ばしているとしたら、指示命令違反で処分も検討しなければなりません。しかし会社が仕事の内容を把握していなかったら、不正行為があったかどうかすら把握できません。デジタコやGPSなどは、そうしたことに対する検証として活用すべきです。」
Q
「デジタコのデータは、労働時間(残業時間)の算出には利用できない、ということか」
A
「まずは、会社としての勤務時間の計画が必要だとの理解をして下さい。例えば、7時出勤で荷主の倉庫に回送すれば十分間に合うのに、運転手が5時に出勤し倉庫に回送。朝食と休憩をしていた、という場合には5時から労働時間(残業時間)として算出しますか?」

「デジタコはあくまでも、運転の結果です。会社が運転手に対して指示した勤務内容、出勤時間や休憩時間、退勤時間を明確にしないと、その記録は運転手個人の恣意性が入り正確性を欠いてしまいます。勤務の計画がなければ時間の管理はできないと考えて下さい。」
Q
「そうすると休憩時間もデジタコのデータから取り出すのは問題があるということか。確かに、運転手によっては、休憩の操作をしたりしなかったりで、信用性に欠けているのは間違いない。」
A
「休憩時間も事前計画で可能な限り指定するのが望ましいですね。卸し待ちなどは休憩時間とはなりませんので、実態的に休憩できる時間を計画して下さい。」
Q
「待機時間や空き時間が多いので、労働時間(残業時間)を短くするのに休憩時間をできるだけ多く設定したいのですが1時間以上は無理ですか。」
A
「労働基準法では労働時間(残業時間)が8時間を超えるの場合に少なくとも1時間の休憩時間を付与することになっていますが、最低の基準であり、上限については定めていません。自動車運転手の場合、あまりに長い休憩時間は拘束時間を長くすることもあり、おおよそ3時間まで可能と理解されています。」

「運行計画を作る段階で、休憩時間がどれだけ取れるのかを検討して下さい。休憩時間は3時間まで設定することが可能です。例えば、4時から17時まで13時間拘束の場合、3時間休憩では労働時間(残業時間)が10時間、時間外が2時間となります。」
Q
「時間管理の必要性は理解できる。ただ、今は、歩合制で働いた分だけ運転手には給与を支払っており、休日出勤とか残業代とかを時間換算で25%、30%増しなんかにしたら会社が大赤字になってしまう。」
A
「歩合制でも残業の割増は支払うことが決められています。もしかして、払っていないとなれば違法状態ですよ。就業規則で、その歩合給が何時間分の残業時間を含んでいるかが書かれていますか。もし、書かれているとしても、その時間をオーバーした場合、その分の支払義務があります。ですから、運転手一人ひとりの労働時間(残業時間)の把握が必ず必要となります。」
Q
「売上の割合での歩合給を廃止し、労働時間(残業時間)に見合った給与を支払ったら、売上げが少なくなっても、最低賃以上の給与を支払うことになる。会社が赤字になるのは目に見えている。」
A
「そうすると、仮に売り上げが結果としてゼロだったらいくら働いても給与がないということになりますね。全額歩合給でも、支給額を運転手が働いた労働時間(残業時間)で割った額が最低賃金以下だと最賃違反となります。この場合でも、労働時間(残業時間)が把握できていないと最賃違反かどうかさえ分からない状態となってしまいます。」
Q
「大阪の最賃が858円、所定労働時間(残業時間)が176時間(8×22)として残業が100時間として基本給が151,008円残業代が858×1.25×100=107,250円。これだけで258,258円。手当も設定できないから、頑張った運転手が報われる様な給与制度にならない。」
A
「最賃については誤解が多いですね。基本給としての時給で必ずしも最低858円という額が決められている訳ではありません。歩合給等の手当も含め時給換算した額です。例えば、時給が500円での手当を足したら900円になる場合はOKです。ただ、その手当は残業時間も含めた時給として計算するので、労働時間(残業時間)の管理が絶対条件となります。」
Q
「結局、運転手であっても労働時間(残業時間)の管理ができていないと、残業代や最低賃金、週40時間制など全てについて労基署の指導が避けられないということ?」
A
「その通りです。加えて言えば、2016年4月から年間5日間の年次有給休暇取得の義務付け検討されていますが、年間休日や所定労働時間(残業時間)が曖昧なままでは対応できるはずもありません。そもそも年間休日数すら不明確なのですから。」
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